クリスマスには家族で過ごすのが当たり前だった。
 暖炉に火がともり、母が家族のために腕をふるう。
 ライルや妹とはしゃぎながらモミの木やリース、オーナメントを飾って。
 笑い声と笑顔が絶えなかった。

 ―――もう遠い、幼いころの思い出。
 愛しい面影ばかりが思い出される、優しい世界の。







「そうそう、兄妹でプレゼント買いに行ったのに喧嘩してさ」
「あんときは何が原因だったんだっけなー?」

 多少入ったお酒のおかげか、皆陽気だ。
 くつくつ笑いながらディランディ兄弟が幼いころの思い出を披露していくと、皆が楽し
 げに笑う。

「基本的に喧嘩になる時はライルが突っかかってくるんだろ?」
「う…まぁそうかもしれない、けど」
「なぁに〜?あんた達あんまり変わってないじゃないの」

 スメラギの指摘に、周囲から笑いが起こる。
 ぶつぶつと文句を言うライルをニールがなだめて。そんな彼らにまた茶々が入る。
 少しだけバツの悪そうに目を見合わせる双子に、刹那も小さく苦笑した。

 12月24日、クリスマスイヴ。
 さすがにこんな日までまじめに仕事をしなくても、情勢は落ち着いている。そう言った
 のは誰だったか。
 数日前から皆がそわそわしており、スメラギと相談して今日と明日はクリスマス休暇と
 いうことになった。
 宗教の行事であるクリスマスなど、刹那には興味もなければ別に祝いたくもない。けれ
 ど多国籍のトレミー内ではお祭り騒ぎが確定していた。
「こんな時なら騒いでもいいでしょ」といったのはスメラギで、「みんなでパーティーが
 したい」といったのはフェルトとミレイナだった。
 女性陣は料理や酒などを準備し、男性陣は飾り付けを担当し、今日を迎えた。
 シャンパンに始まり、ワインなどのアルコールはスメラギがどこからか仕入れてきたら
 しい。どれもかなり質がいいもののようだ。
 甘い口当たりのものを飲まされた刹那は、ほんのり頬を染めて、壁際から皆を眺めてい
 た。

「刹那?」

 鴇色の髪が視界の端で揺れる。
 落ち付いた声とともに、エメラルドの眸が刹那を覗きこんできた。
 まだ未成年の彼女はジュースの入ったグラスを片手に持っている。もう片方の手には、
 黄色のリボンを巻き付けたハロを抱いていた。

「フェルト」
「そんな隅っこでどうしたの?あんまり食べてないみたいだけど…料理、美味しくなか
 った?」
「いや、そんなことはない」
「なら、いいけど」

 隣に座ってもいいかと視線で問われ、首肯して身体をずらした。
 ぽすん、と腰かけたフェルトは騒ぎの中心である双子を見ながら問う。

「不謹慎って思ってる?」
「…この騒ぎか?」
「うん」

 ―――神などいない。
 そう何度も告げてきた自分を気遣ってくれているのだろうか。
 確かに刹那はこういった騒がしい雰囲気は苦手だ。自分が異物のように感じてしまうか
 ら。
 けれど、昔よりは苦手だと思わなくなった。
 だからそのまま伝えると、フェルトは目を細めて微笑む。

「私も苦手だったけど…今は楽しい。クリスマスって家族の日でもあるんだって」
「…家族」
「トレミーがみんなの家だから、ここにいる人はみんな家族。刹那も」
『ハロモ ハロモ!』
「……そう、か」

 じっとしていたオレンジ色のAIがフェルトの膝の上で楽しそうな声を上げる。
 黄色いリボンが揺れ、目に鮮やかだ。
 クルーたちを見渡すと、皆が笑っている。

「…たまにはいいかもしれないな」

 刹那はジュースの入ったグラスを軽く掲げると、綺麗な笑みを見せた。





「そういえば、そのリボンはどうしたんだ?ハロ」

 フェルトがスメラギに呼ばれてしまい、ハロは刹那の手に預けられた。
 丸いAIを膝に抱き、首をかしげると、ハロは嬉しそうに耳のような部分をパコパコ開閉
 する。
 手に取った黄色は手触りがいい。質がいいものだ。

『ロックオン ロックオン』

 ハロの答えに、刹那は納得したように頷いた。
 言われてみれば―――こんなことをするのは彼だろう。

「…ニールの方だな?」
『マイテクレタ!ハロモオシャレ!』
「…ああ、似合っている」
『セツナモスル?セツナモスル?』
「いや、俺は遠慮する」
「えー?似合いそうだけどなぁ」

 突然聞こえてきた声に視線を向けると、楽しげなベリルとかちあった。
 ニールは刹那の手からハロを抱えあげ、リボンを結いなおしてやる。
 そしてどこから出したのか、ハロに巻いているものより細めの赤いリボンを取り出し、
 するりと刹那の髪に結いつけた。

『セツナ、オソロイ!』
「…何のつもりだ」
「たまにはいいだろ?せっかく伸びたんだから」

 革手袋をしたしなやかな指が刹那の髪をひと房掬う。切る機会を逃し続けて背中の半ば
 まで伸びた髪。そのまま見せつけるように口づけられ、刹那はため息とともに彼のほん
 のり上気した頬を軽く叩いた。

「…酔ってるのか」
「んー、まぁちょっと」

 だいぶ飲まされたしな、と笑う彼はずいぶん機嫌がよさそうだ。
 先程フェルトが座っていた位置に腰を下ろし、ニールはハロを撫でながら口を開いた。

「黄色のリボンにはさ、クリスマスの逸話があるんだってさ」
「逸話?」
「そ。リボンって言ったら黄色のリボンって…昔からこの時期は言うんだけど」
「知らない」
「ん、だろうと思った。まぁキリストの宗教が入るから知らなくて当たり前かもな。確か
 ルカの福音書の中にある話だったか…?」

 ニールの優しい声が、ゆったりとひとつの話を始めた。





 昔々、ある人に二人の息子がいた。
 ある日弟の方が父に分けてもらうはずの財産をもらい、すべて金に換えて遠い国へ旅立
 った。
 そして贅の限りを尽くし、全財産を使ってしまった。

 すべてを使いつくした彼は襲いかかった飢饉になすすべもなく。
 我に返った彼は
「天に対しても父に対しても、自分は罪を犯してしまった。息子と呼ばれる資格はない、
 雇い人の一人にしてもらおう。」
 そう思い、父のもとへ戻ることにした。

 帰ってきた息子はまだ遠くにいるというのに、父は彼に気付き、走り寄ってキスをして
 くれた。
 息子は父に罪を犯したのだから、もう息子と呼ばれる資格はないのだと告げた。
 しかし父は僕(僕)たちに言った。
「急いで一番良い服を持ってきて、この子に着せ、手に指輪をはめてやり、足に履き物を
 履かせなさい。それから、肥えた子牛を連れてきて屠(ほふ)りなさい。食べて祝おう。
 この息子は、死んでいたのに生き返り、いなくなっていたのに見つかったからだ。」
 そして祝宴を始めた。

(ルカによる福音書 第15章11〜24節 放蕩息子の帰郷 より 引用)





「…どこに黄色のリボンが出てくるんだ?」
「まぁ最後まで聞けよ」

 刹那が首をかしげると、ニールは小さく微笑んだ。

「この話が元になったのかはわからないが、『Tie a Yellow Ribbon Round the Ole Oak
 Tree.』っていう古い歌があるんだ。それに出てくるんだよ」
「歌…?」
「その歌は服役していた男が三年ぶりに恋人のもとへ帰る時の心情を歌ってるんだよ。
 恋人に、自分をまだ必要としてくれているなら、古いオークの幹に黄色いリボンを結ん
 でおいてくれって」
「……黄色のリボンを」
「そう」
「…リボンはあったのか?」

 おそるおそる、というように問うと、彼はベリルを細めた。
 昔の自分なら、こんな話くだらないと一蹴していただろう。けれどなぜかひどく、その
 歌の結末が気になった。
 つい、とニールの袖を引くと、彼は刹那の頬をそっと撫でて――頷いた。

「あったよ、ちゃんと。その彼女は、オークの木に100個も黄色のリボンを結んでくれて
 たんだ」

 それはすごい光景だっただろう。刹那には想像がつかないが。
 彼女は「彼」を待っていたのか。自分のもとに帰ってくるというその人を。

「よかった、な」
「うん?」
「…待ってて、くれて」
「…ああ…きっとすごく嬉しかった。…俺にはあの歌の男の感情、少しわかるよ」
「え…?」

 困ったように微笑んだニールにそっと肩を抱き寄せられ、刹那は目を瞬かせた。
 アルコールのせいか、いつもより高く感じる体温。ふわりと香る彼の匂い。
 一度失ったはずの―――。

「刹那」

 解る気がするとは――そういうことか。
 彼の眸がどこか哀しげに笑う。
 4年前、ニールは家族の仇を討つために怪我をおして戦い、刹那の前からいなくなった。
 二度と触れ合うことのできない距離に、逝ってしまったはずだった。
 けれどもう一度逢えて、抱き合える距離にいる。

「…俺も、その男の彼女の気持ち、解るかもしれないな…」
「刹那」
「俺は黄色いリボンなんて飾ってなかったけど…待って、いたと思うから」

 肩を抱いていた手が背に回る。密着するように抱きしめられた。
 変わらない、唯一安心できる腕の中で目を閉じる。
 頭を肩に預けると、長く伸びた髪をゆっくり梳かれた。

「ニール」
「うん」
「ちゃんとみんな待ってた。俺も、フェルトも、ハロも。…ティエリアだって」
「うん。…ごめんな」

 何度も繰り返してきた話だ。
 ニールが帰ってきて、抱きしめられながら何度もこうして確かめるように。
 そっと頤にかけられた手に上向きにされる。
 片方はいまだ黒い眼帯で覆われている眸が、痛いけれど。
 降りてきた唇は、頬と瞼に触れて―――離れた。

「ニール…?」
「あー…しまった」
「え?」

 当然のように唇に降りてくると思っていたのに、なんだかお預けをされた気がする。
 問うようにニールを見ると、彼は苦笑しながら指差した。
 示される方向に視線を動かすと、そこには妙な笑みを浮かべたクルーたちが刹那たちを
 見ていて。

「兄さーん、それ以上は部屋でしろよ」
「あらぁ?私たちはそのままここでされても全然構わないわよ〜?」

 ライルの呆れたような声と、確実に酔っているであろうスメラギの楽しそうな声。
 刹那は我に返ったように、ニールから離れた。
 頬が熱い。絶対に赤くなっている。
 ここがどこだか失念していた。

「刹那、ごめん…」
「っ…いや」
「んー、部屋に戻るかぁ。もう結構いい時間だし。フェルトたち未成年組も撤退させな
 いとな」

 まだ頬に熱を持ったまま、いつの間にか放りだされてしまったハロを抱える。
 ハロが「ヒドイ ヒドイ」と繰り返すのをなだめるように撫でてやると、満足したのか
 はねながらフェルトのもとへ向かった。








 撤収にはまだ早い、と。大人組は相変わらず飲んでいるらしい。
 一足先に自室に戻った刹那は、明日ブリーティングルームに死体が出来ているのだろう
 という外れない予想をした。

『全く…。相変わらずだな、トレミーは』
「クリスマスなんだから大目に見ろと言われた」
『…別に悪いとは言ってない』

 苦笑した刹那の脳内で、憮然とした声が響く。
 近くにあった端末にふわりと映ったのは、ヴェーダになったティエリアだ。
 秀麗な美貌が微笑んで刹那を見つめた。

『楽しめたか?』
「…ああ。たまには何も考えずに騒ぐのもいいかもしれない」
『そうだな。時には息抜きが必要だ。…君には特に』

 ティエリアの眸が細められ、困ったように首を傾けた。

『部屋に戻ってから…か?君の感情の揺れが伝わってきたから出てきたんだ。何か気にか
 かることがあるんじゃないのか?…ニールに言えないのなら、僕に聞かせてくれないか』
「ティエリア…」
『せっかくのクリスマスだ。…僕にも何か、させてくれ』

 カメリアの眸が悪戯っぽく笑う。
 刹那はそんなティエリアに小さく笑い返した。

「別に大したことじゃないんだ。ただ、クリスマスというのは、家族が深くかかわる日
 なのだと聞いたから。…少し、複雑なのかもしれない」
『ああ…。宗教的な意味としては、救世主…キリストの降誕祭、だ。だがまぁ家族で過
 ごすのが基本的だろう。だが…君が気にしているのはそういうことじゃないだろう?』
「…そうだな…」

 家族、という言葉を聞くと彼はいまだほんの少し。哀しそうな顔をする。
 彼は家族にとてもこだわりを持っていたから、仕方ないとは思う。けれどやはり、哀し
 そうな顔をされるのはどこか辛い。
 一度壊してしまったものに手を伸ばすのが怖いのは、刹那も同じだ。
 けれど、そうも言ってられなくなった。

『ニール・ディランディに伝えなければならないことがあるんだろう?』
「…気づいて、いたのか」
『ああ。君とはヴェーダを通して繋がっているからな』
「そうだったな…」
『伝えるのが……怖いのか?』
「…そう、なのかもしれない。伝えるのも、その先も」

 俯いた刹那に、ティエリアは軽くため息をついた。
 彼女より先にその事実を知った身としては、正直とてももどかしい状況だ。
 怖いという気持ちは分からなくもない。けれど、彼はきっと―――。

『君は知っているか?クリスマスという日は、奇跡が起こってもおかしくない日なんだ
 そうだ』
「え?」

 思わず、というように顔を上げると、優しいカメリアが見下ろしていた。
 目を閉じるように、と言われ従うと、ティエリアの気配をより強く感じる。

『君が願えば、きっと叶う。刹那』

 脳裏に浮かぶのは、いつか教会で見た天使のように美しく優しい笑みをたたえたティエ
 リアで。
 ほんの一瞬、額にキスが落とされた――気がした。

『―――君達に幸福が降るように。僕も願おう』

 今、身体のないはずの彼からのキスは、感触など感じない。
 けれど確かに、羽がそっと撫でていったような、そんな柔らかくあたたかい感触がした。








 ドアの前で名を呼ぶと、すぐにロックが解除された。
 ロックナンバーを知らないわけではないが、いくら親しい――恋人でも、勝手に開ける
 わけにはいかない。
 いや、そんなのは建前で、本当はほんの少しまだ逃げたいという気持ちがあったからだ
 ろう。だから自分でドアを開けることが出来なかった。

「刹那?」
「…邪魔だったか?」
「いや?今から俺がそっち行こうかと思ってたんだよ」
「そうか…」

 開いたドアの先、ニールは部屋に入るように促す。
 おそるおそる足を踏み入れると、彼が訝しげな顔をする。

「…どうした?」

 そっと頬を滑る大きな手は、今は革手袋をはずしていた。
 美しい白い手に安堵する。思ったより、身体が冷えていたらしい。
 導かれるまま部屋のベッドに腰掛けると、間をおかず彼が隣に座る。

「刹那?どうした」

 部屋に入ってからまだ一度も彼の顔を見ていない。
 何かあったのかと心配の混じった声にも何も言えない。
 俯いたままでいると、いきなり浮遊感に襲われる。視界をかすめた赤いリボンに、刹那
 は紅茶色の眸を瞬かせた。

「っ!」
「せーつな?」

 幼子にするように膝の上に抱きかかえられている。
 成人しても細い刹那の身体は軽々とニールの膝の上に収まった。
 自然と刹那の方がニールを見下ろす体勢になる。照明の灯りが強くない部屋では色味を
 濃くするベリルが刹那を見上げていた。

「どうした。最近たまに何か考え込んでたよな」
「…気づいて」
「当たり前だろ。いつ話してくれるのか気になってしょうがなかった」
「…すまない」

 肩に手を置いてバランスをとる。少し怒ったような口調とは裏腹に、ニールは苦笑して
 いた。

「刹那、俺に言えないことじゃないなら…教えて」

 額に口付けられ、優しく促される。
 刹那はニールの肩に置いた手をきつく握り、揺れる紅茶色の眸を一度閉じた。
 息を、ひとつ。小さく落として目を開ける。
 そしてブラウンの髪をかきわけ、彼の耳にそっと唇を寄せた。


「  子供が出来た 」


 囁いてすぐ、ニールの身体がピクリと動く。
 おそるおそるというように身体を離され、視線が絡んだ。
 ベリルは大きく瞠られ、驚いているのがありありと伝わる。刹那は居た堪れなくなり、
 視線を逸らした。

「本当、か?」
「…まだ、医者に診てもらったわけじゃない。でも検査薬では、そうだった。ティエリ
 アも…認識していた」
「あいつがお前の体調、間違えるわけないだろ。…じゃぁ…!」
「多分、2ヶ月くらいになる」

 だから先程、どんなに勧められてもアルコールの類を飲まなかったのか。
 ニールはたった今聞かされた事実に情けない声を上げて、刹那の肩に顔を伏せた。

「ニール…?やはり困るか?」
「ちょっと待って。…泣きそうだから」

 顔を伏せたまま身動きしないニールに、刹那は身体を固くする。
 喜んでくれるか、それとも迷惑がるか。刹那には彼の反応が想像できなかった。だから
 今、泣きそうだと言われて困惑している。それは、どちらと取ればいいのだろう。
 だんだん自分の方が泣きそうになってきた。
 刹那の困惑が伝わったのか、ニールがようやく顔を上げる。
 ベリルが微かに潤んでいた。

「刹那」

 しっかりと頬を包まれ、顔を固定される。
 鼻がくっつきそうなくらいに間近で見つめられ、刹那はその眸に魅入って瞬きも忘れた。
 目が一番雄弁だと、最初に見つけたのは誰だろう。

「ありがとう。最高のプレゼントだ」

 囁かれた言葉に、ようやく瞬きをする。途端、ポロリと涙が零れた。

「ニール…」
「嬉しい、本当に。…刹那」

 ありがとう、ともう一度囁かれ、刹那はニールの首に腕を回す。
 すぐにきつく抱きしめられ、額に、瞼に、頬に、唇にキスが降ってくる。

「どうしようか…幸せすぎて泣けてくるのは初めてだ」

 額を重ねて熱を分け合うように身体を密着させる。隙間などないくらいに、抱きしめあ
 う。
 頬が濡れる感触に彼を見ると、ベリルの眸から伝うものがあった。
 幸せだと、心から思う。泣きながら笑うニールに、刹那は自分から唇を寄せた。

「こんなに幸せで、いいのだろうか…」
「いいんだよ、刹那。ずっと苦しかったけど、世界はまだ綺麗ではないけど」

 ニールは片手でジャケットのポケットを漁り、何かを取り出す。
 そっと取られた左手に、冷たい感触。
 思わず瞠目し、彼を見つめる。
 上気してほんのり赤く染まった頬は、照れから来るものだろうか。

「今日渡そうと思ってたんだ。…予約のつもりだったんだけど」

 本当にソレスタルビーイングの活動が停止するにはまだ時間が必要で。
 きっと刹那はそれまで止まることなど出来ないから、渡すのを躊躇っていたのだけれど。
 そう話す彼はまだ少し躊躇いが見える。けれど刹那が好きな柔らかい笑みを浮かべて抱
 きしめてくれた。

「愛してるよ、刹那。…お前と生きて、家族を作りたいって思ってた」
「ニール…」
「幸せにするよ。この指輪とこの子に、誓う」

 もう二度と離れないし、離さないから。
 だから永遠を、共に。
 真摯な誓いの言葉は白銀の輝きに刻まれて。そして、まだ兆しの見えぬ薄い腹に向かっ
 て告げられた。

「…俺も、誓う」

 あなたの隣にいられる幸せが永遠に続くように。
 神様ではなく、白銀と、新しい命。そして自分を変えたあなたへ。
 自分の髪につけられていた赤いリボンをはずし、指輪の代わりに彼の薬指に結ぶ。
 くすぐったい様なとろけそうな幸せに、刹那はニールの腕の中で綺麗な笑みを浮かべた。




 今宵、聖夜。
 奇跡の起こる夜。
 争いなど、この世界から消えてしまう日。

 確かな幸せが、刹那を包んでいた。








          While picking up glent.
               ―――ずっと、君と幸せを集めながら










 
 
 
 
 
 
 
 

       お待たせしました。サイト開設4年目記念とクリスマス小説です。
       フリー期間は1月いっぱい。2月は多分バレンタイン書くので。
       もしもらってくださる方は、著作権は放棄しておりませんのでそのおつもりで。
       こんな作品ですが、感想お待ちしております(笑)

           2009.12.20 たくさんの幸せがあなたに降りますように。