表情をつくるのは、それほど難しいと思ったことはない。
 カメラを向けられる瞬間の、それこそ刹那の間―――。

 ただ自分をさらけ出すのは怖いから、仮面を装って。
 ねぇ本当は、それをは取り去るのは貴方であって欲しかった。










     03. 押さえ込まれた感情










 学校から帰ってすぐ、携帯電話が着信を知らせた。
 表示されている名前は隣の家に住む兄弟の片割れ。

「…なんだ?」

 今は仕事中のはずだ。とりあえず通話にし、耳元に当てる。
 とたん聞こえだした慌ただしい音に、思わず眉を寄せた。

『あ、刹那か?』
「……切ってもいいか」
『おいおい!早速切ろうとすんなよ!』

 焦ったようなライルの声に、刹那は出るんじゃなかったと激しく後悔した。
 電話越しにかすかに聞こえる会話から、何を言われるか予想がついたのだ。
 こういった場合、必ずと言っていいほど、嫌な予感は当たる。

「…嫌だからな」
『…まだ何も言ってないだろ』
「断る」
『せっちゃん〜』

 男の猫なで声は気持ち悪い。
 一刀両断に切り捨てる気満々で携帯を持つ手に力が入った。

『嫌なのはわかるけどさ、お前しかいないんだよ!わかんないようにするし』
「わかるやつにはわかる。…ティエリアが怒る」
『……一緒に説教受けるから!』

 間が気になったが、その声があまりにも真剣で、切羽詰まっているようだった
 から。
 いつも世話になっている礼も兼ねて、溜息で答えた。





「冬に食中毒って、どうなんだ…」

 着替えやすいシャツとジーンズ、という格好で現れた刹那をスタジオの入口で
 迎える。
 しかめっ面した少女を宥めるように笑いかけると逆にじろりと睨まれた。

「今回だけだからな」
「わかってるって。…ごめんな、約束破って」
「…あんたにはいつも助けられてるから。それに……ニールも困るんだろ」

 今回の撮影が二人の仕事に大きく影響していると聞いている。
 ―――だから了承したのだ。
 ポン、と大きな手に頭を撫でられる。まるでわかっているよ、と言われている
 気分だった。
 ターコイズグリーンの目が困ったように見下ろしてくるのを強く見返して、ス
 タジオに足を踏み出した。






 きらびやかな世界は性に合わない。
 顔見知りに手を引かれながら、刹那は慌ただしい控室に引っ張り込まれた。

「急にごめんね、刹那」
「…クリスティナ」

 服の山からひょこりと顔を出したのは、ライルと撮影する時にいつも一緒に来
 るスタイリストだ。
 刹那をここまで案内したメイクアップアーティストもライルの旧知で、今回も
 メイクを担当してくれる。

「雑誌には絶対に載せない、って約束してたのにね。本当にごめんなさいね」
「…アニュー」

 困ったように眉尻を下げた女性に刹那は首を横に振った。
 すまなそうにしている二人に小さく微笑みかける。

「ライルが撮るんだし、今回だけって言った」
「うん!それは約束するわ。さ、着替えよっか」
「私も準備するわね。いつもより気合入れてメイクしてあげる」

 刹那の言葉に安心したように頷く彼女達に言われるまま、着替え、メイクをさ
 れる。
 いつもこの瞬間は、魔法のようだと思ってしまう。
 はね放題の髪はきれいに整えられ、薄っすらと、けれどきつめの印象を変える
 程度に施される化粧。そしていつもは絶対に着ないような服―――。

「はぁ〜…。相変わらず可愛い!」
「いつも思うけど、刹那にメイクしてると、自分の腕に自信持つわ…」

 満足げな二人に促され、鏡をのぞいた。
 そこに映るのは着飾った可愛らしい女の子。
 別人になったような、そんな自分がそこに映っている。

「今日のコンセプトは神話らしいから、いつもより大人っぽくしてみました!」

 クリスティナが楽しそうに説明していく。
 白一色で作られた一枚布の服は確かに神話の女神が着ていそうなものだ。
 肩のあたりは多少露出しているものの、全体的に肌が出ている部分は少ない。
 ―――それがさらに効果的だとわかっている。

「ギリシャ神話のイメージよね。スタジオでこれつけましょう」
「あ!蔓の冠?」
「そうよ。でも刹那には金細工のティアラの方がいいかしら」
「うーん…。スタジオで決めよう?ライルたちもいるし」
「そうね」

 話はまとまったようだ。刹那が小さく首を傾げると、クリスティナが手を差し
 出してきた。
 スタジオに行くと言われ、長い裾に苦戦しながら向かうことになった。
 途中、やけに感じる視線に辟易していると、両脇を歩く二人が苦笑する。

「刹那が綺麗だから」
「…わからない。確かに今はいつもと違っているが」
「もう!刹那はいつも可愛いの!」
「そうよ?ライルもニールさんもいつもそう言ってるわ」

 それは彼らにとって、自分が妹だからだ。
 そう反論するのもいつものこと。けれどなぜか、今日は言えなかった。





 本当に、物語の世界から抜け出たような装いだった。
 
 いきなりお抱えモデルが来れないと連絡が入ったのは、撮影の始まる2時間前。
 今日の撮影はとある有名雑誌のもので、穴を開けることなど許されない。
 編集者の一人であるニール、そして今回が初めて個人に任された大仕事になる
 ライルは頭を抱えた。

「…どうする?空いてるモデルがいないなんて…」

 近くにショーが控えており、その関係から撮影のコンセプトに合いそうなモデ
 ルは全て駆り出されていた。
 どうしたものかと考えていたが、名案は浮かばず、時間だけが過ぎていく。
 そのうちニールは会社からの呼び出しで戻らなければならなくなった。

「ライル、俺は一旦会社に戻る」
「ああ。…兄さん」
「どうした?」
「プロじゃなくてもいいよな…。モデル」

 知り合いの女性にでも頼むつもりかと眉を寄せたが、この状況では仕方がない。
 だから好きにしていい、と言ったのだ。
 まさか刹那を呼ぶなんて、思わずに。



 スタジオに入った途端、いっせいに視線が刺さった。
 それに負けるものかと顔をあげる。

「刹那」

 近づいてきたライルを睨みつけると、彼は楽しそうに笑った。

「その意気だ。―――女神さま」

 アニューが持っていた髪飾りのうち、美しい金細工のティアラを刹那の頭に飾
 る。
 満足そうに目を細め、動きづらそうな子供を抱き上げた。

「ライル!?」
「裾汚しそうなんだよ。おとなしく抱えられとけ」

 緑の木々と床に敷かれた赤い布。そして本物のような虎が一頭横たわっている。
 虎に寄りかかるように座らされ、ライルはカメラに向かった。

「刹那。気だるげにしてみろ」

 いきなり指定されるのにはもう慣れた。
 最初こそ戸惑っていたが、何度もライルに撮影されている。だから今回もそれ
 と同じだと思えばいい。
 刹那は身体の力を抜き、虎に腕を回して目を伏せた。
 白い衣装は肩しか露出がない。袖は長く、指先しか出ないし、足もほっそりし
 た足首が覗くくらいだ。
 しかしそれが余計に神秘的で、隠されていることから細い肢体のラインだけが
 浮き彫りになる。子供のなかに、大人の色気が混じったような、そんな危うさ
 が醸し出されていた。

「自由にしていい。目線だけなるべくカメラな」

 ざわりとスタッフたちが騒ぐ。
 急に連れてこられた少女に何を言っているのかと。
 しかし周囲の予想に反して、慣れたように動く。
 虎にしな垂れかかる仕草は、まるで甘えているようだ。虎とのじゃれあいに飽
 きたのか、立ちあがって木に手を伸ばす。
 その動きは静かで、しなやかで。誰もが見惚れるような雰囲気を一人の少女が
 作り出していた。
 一輪の花を手に、そっと赤褐色の眸を伏せる。手に絡まるように巻かれた蔓が
 刹那のがらん締めの心を映したようだと―――ライルはゆっくりシャッターを
 切った。








「クリス、今度の撮影会の時に刹那に着せたいって言ってたあの黒いゴスロリ衣
 装ここにあるか?」
「え?私物だし…あ!でも車の中の衣装ケースに入れてたかも」
「悪い、探してきてくれないか」
「…いいけど、何するの?」
「今着せるんだよ。このまま撮影会、かな」

 ライルの楽しげなウインクに、クリスティナは大きく頷いて駆けだした。
 せっかくセットがあるのだ。そしてこのスタジオは今日、ライルが借りている。
 アニューも楽しげにメイク道具を確認しだした。

「ライル?」

 刹那の訝しげな声に、ライルは手招きする。

「ニールが写真取りにくるまでの間、ちょっと遊んでようぜ」
「は?」

 撮影をしていた時のあの触れるのにためらうような空気はない。
 ライルは刹那を抱えると、さっさと歩きだす。
 このままスタジオにいると、多分勧誘されてしまうだろう。それなら撮影を続
 けてそんな隙を与えない。
 もがく子供を巻き込んでしまったことを申し訳なく思いながらも、自分が高揚
 感を得ていることは隠せなかった。

「刹那、ありがとな」

 唐突な礼の言葉に、刹那は動きを止めた。
 そっと顔を見ると、彼と同じ顔が楽しそうに輝いていた。
 なんだかむず痒くなって、ふい、とそっぽを向く。そして全く関係ないことを
 呟いてみた。

「礼ならあのセットにあった虎が欲しい…」
「馬鹿言うなよ…。さすがに無理だ。だいたいどこに置く気だよ」
「部屋」

 一緒に寝る、という少女に苦笑する。
 
「デカイぬいぐるみでも買ってやるよ」
「…うん」

 肩に置いた手に力を込めると、宥めるように撫でられた。
 彼は一人で眠れない夜があることを知っている。だから気付かない「彼」の代
 わりに出来るだけ。

「大丈夫だ、刹那…」

 言葉の意味は、きっと互いにしかわからない。








 すれ違った時に聞こえた会話に振り返る。

「すごかったな、今日の撮影」
「ああ、第三スタジオな!あの子一般の子だろ?」
「そうそう、ライルの知り合いだってよ。可愛かったなぁ…」

 撮影はもう終わったのか。
 案外時間がかからなかったな、とライルがいるはずのスタジオに足を進めた。
 時計の針は午後8時を指している。
 刹那は夕食を食べただろうか。今日は二人ともいなかったのなら、もしかした
 ら食べていないかもしれない。
 それとも両親のどちらかが帰ってきただろうか。いや、しばらくどちらも出張
 だと刹那から――正確にはライルから聞 いている。
 直接聞けなかったのが引っ掛かるが、聞かなかった自分も悪い、と小さくため
 息をついた。
 ライルの言う通り、もう16歳だ。食事にいちいち口出しするのはやはり控える
 べきなのだろうか。

「…ん?」

 携帯電話が振動を伝え、スーツのポケットから取り出す。
 メールだ。差出人は―――。

「あ、やばい」

 今来た通路を駆け足で戻る。
 メールの差出人は彼女だった。
 内容は忘れものをしている、と。今日はここの様子を見て仕事は終わりだ。そ
 のまま彼女と食事にでも行こうか。
 そんなことをのんきに考えながら関係者入口へ向かう。
 会社は違うが、仕事で何度か手を組んだこともあるため、今回もその手の書類
 を届けに来てくれたのだろう。入口付近で待っていた女性にニールは笑いかけ
 た。



「いいの?私まで入って」
「大丈夫だろ。ライルがいるし」

 ブロンドの髪をまとめたスーツ姿の女性は困ったように首を傾げた。
 その仕草を可愛いと思う。―――似ているから。
 スタジオからまだシャッターを切る音が断続的に聞こえていた。
 今まさに扉に手をかけている女性に見覚えがあり、ニールはぽん、と肩を叩く。

「よ、クリス」
「あれ?ニール?」
「まだ撮影中なのか?」

 ライルを通して何度かあったことのあるクリスティナに声をかけると、きょと
 んとしたオリーブ色が見返してきた。
 ニールの問いにああ、とスタジオを横目で見る。

「今はお遊びの時間だよ。中に入る?」
「そうだな…邪魔じゃないなら」
「ふふふー。多分ビックリするよ」
「え?」

 悪戯っぽく笑うクリスティナに首を傾げつつ、連れ立ってスタジオに入る。
 自分と同じ容姿の男がカメラを持ち、楽しそうに撮影をしていた。
 そのレンズが向かう先―――。

「せ、つな?」

 佇むのは淡い薄紅のワンピースに身を包んだ、よく知った少女だった。
 装飾はレースと胸元を編み上げた赤いリボン。それからリボンと同色のチョー
 カーに、ワンピースと同じ布で作られて いるらしいヘッドドレス。

「あら、可愛い子ね。ニールの知り合いなの?」
「…なんで刹那が…」
「刹那ちゃんっていうの?」
「ああ…隣の家に住んでる…幼馴染」

 彼女の声に無意識に答えながらも、視線は刹那から離れない。
 視線に気づいたのか、赤褐色の大きな眸がふとニールを映して瞠られた。

「あ、こっち見たわ」

 彼女がニールの腕に手を絡めて引っ張る。
 クリスティナがライルに駆け寄った。

「ライル!ニール来たわよ」
「…ああ」

 刹那の視線が逸れたことで気づいていたのだろう。
 苦々しげな表情を浮かべたライルをオリーブ色が不思議そうに見る。

「…ライル?」
「悪い、ちょっと刹那頼む」
「え?」

 意味深な言葉に刹那を見ると、ニールを見つめたまま――正確にはその隣の女
 性を見つめたまま固まっている姿があった。
 思わず駆け寄ると、赤褐色の目が大きな落胆と絶望を映して伏せられる。

「刹那…?」

 再び開かれたその目は、諦めと哀しみを映していた。
 それがあまりにも痛々しくて、思わず冷たくなった手を取る。
 ひやりとしたその温度は、まるで今の刹那の心情のようで。
 何が刹那を絶望させたのか―――その視線を追ってピンと来た。

「刹那、あとちょっと付き合ってくれ」

 ニールと何か話していたライルが近づいてきて、刹那の頭に手を置いた。
 ライルの身体がニールたちを遮る。

「…ライ、ル」
「ごめん、刹那。あの馬鹿が…ほんとごめんな…」

 まさか一緒に来るとは思っていなかった。
 嫌な思いをさせたくなかった。なのに最悪の展開だ。
 二人の会話から自分の勘が正しいのだと悟ったのか、クリスティナは一度ニー
 ルに目を向け、ライルを見る。
 オリーブが責めるように再度ニールを見、労わるように刹那に向けられた。

「刹那、着替えよう。…ライル、今度は?」
「…撮影の指定だ。泣け、刹那」

 ぼんやりしていた赤褐色が小さく瞠られる。
 乗せられたままの手に頷いたのを感じ取った。


 濃紺のドレスはほとんど黒に見える。
 少し光沢のあるベロアのそれは装飾が一切ない。
 抱えた百合の花と相まって、その姿は喪に服しているようだった。

「刹那」

 その一声に、ぼんやりと彷徨っていた眸からぽたりと落ちる雫。崩れるように
 座り込み、抱えた花に顔を伏せる。世界が崩落したかのような、そんな姿だっ
 た。

「すごかったわ!」

 明るい声が撮影を終えた刹那にかけられる。
 スポットライトにキラキラ輝くブロンドが眩しくて、刹那はそっと目を伏せた。
 楽しそうに自己紹介をする女性に、上辺だけの笑みを浮かべて見せる。
 それが精一杯だった。

「刹那ちゃん、ニールたちとは幼馴染なのよね」
「…はい」
「いいわね、お兄ちゃんがいるみたいで」
「……そう、ですね」

 喚き散らしてしまいたかった。
 今すぐここから逃げ出したい。
 泣いたことでの倦怠感と、慣れない本格的な撮影に知らず疲れているのだろう
 か。感情の振り子がおかしくなっている。
 背後に立っていたライルのシャツを縋るように握りしめた。
 帰りたい。この人のいない所に行きたい。
 刹那の無言の訴えにライルは刹那を抱き上げることで答えた。

「兄さん、刹那は俺が連れて帰るよ」
「え、ああ」
「さすがに疲れてるだろうし、うちで寝かせとくからさ。色々聞きたいこともあ
 るだろうし。フィルムは明日現像して送る。ああ、情報操作もしてもらわない
 と。そこら辺は手回してもらうけど、いいか?」
「もちろん。刹那の名前とか出さないようにする」
「頼むな、兄さん」

 一気に捲し立てるように告げると、じゃぁ、着替えるからと会話を打ち切って、
 腕の中でおとなしくしている少女を連れてスタジオを出る。
 小さく震える細い身体を包むように抱いて、溜息をついた。

「……頑張ったな」

 首に回された腕が、刹那の堪えきれない心のようで、重い。
 けれど涙を流さない子供に、その重さを捨ててしまえとは言えなかった。






 ドアの閉まる直前、細い腕が回るのを見た。
 ニールとは一言も話さなかった少女は、弟に抱きあげられて行ってしまった。

「本当、可愛い子だったわね。ニール」

 彼女が満足そうに笑うのに、誇らしいような、けれど何か渦巻くような、そん
 な感情を覚える。

「雑誌に載ったらきっとすごい反響呼ぶわ。もし刹那ちゃんのこと好きな人は焦
 るでしょうね」
「え?」

 刹那を好きな人―――?
 思わず問うと、彼女はきょとんとしたようにニールを見つめ返した。

「あんなに可愛いんだもの。告白とか増えるかもしれないわ」

 そんなの、ダメだ。
 思わず口をついて出そうになった言葉は、結局出ることはなかった。
 けれどざわりと胸に落ちたそれは、まるでしこりの様に、ニールに残った。





「刹那はニールが好きだったのね」

 脱ぎ捨てられたドレスを片付けながら、クリスティナは静かに言った。
 ぴくり、と反応した刹那に微笑みかける。

「私がスタジオに入れちゃったから、逢いたくない人に会わせちゃったかな…」
「…クリスティナのせいじゃない」

 メイクをした時に座らされた椅子に腰をおろし、俯いた。
 だってこんな偶然、そうあってたまるものか。
 刹那の静かな眸にオリーブが細められた。

「でも最後の、本当に哀しかったの伝わったわ」

 そっと頬を撫でられて、苦笑する。
 哀しかった。お似合いの姿が。話を聞くだけでもつらいのに、逢うなんて思わ
 なかったから。
 わかっていたはずなのに、いつだって本当の意味で分かっていなかった。

「でも今回ので…本当にわかったな…」
「え?」
「ニールにはもう、一番がいるんだ…」

 翠の眸が彼女を映した時、わかった。
 遠目で見ても、ニールの事だから、わかった。
 あれは今までとは違う。本当に大切なものを見るときの眸だ。
 エミリーに向けられるのより、もっと熱がこもっていたけれど、彼が愛しいも
 のを見るときにする―――。
 昔は自分にも向けられていたから、勘違いしていた。
 彼にとって、自分は家族で、妹で、「女の子」じゃない。

「刹那…」

 諦めることに慣れているのだと、聞いたことがある。
 手を放すことに、慣れているのだと。
 でも本当に欲しいのなら、あきらめちゃダメだと。それではいけないのだと。
 クリスティナは刹那の前に膝をつき、小さな手を取った。
 訝しげな視線を撥ねつけるように見返す。

「刹那!女の子はね、ちょっと強気に押すくらいでちょうどいいの!」
「クリス…」
「まだ諦めちゃダメだよ、気持ち伝えてないでしょ!それに彼女がいても、目移
 りしちゃうくらい、イイオンナになればいいの」

 強いオリーブに刹那は呆気にとられたような顔をする。
 感情が高ぶって、クリスティナの方が泣きそうになっていた。
 つないだ手が暖かい。そこから彼女に勇気をもらっているような、そんな感覚。

「刹那、大丈夫。まだ諦めなくていいんだよ…」

 泣き笑いの顔で、クリスティナがそう言うから。
 刹那は小さく頷いた。




 廊下で刹那を待っていたライルに、アニューが歩み寄る。

「クリスが元気づけてるから、大丈夫よ」
「…そうか」

 小さく笑った男に、アニューは同じように壁に寄りかかった。
 疑問を含んだ翠に微笑む。

「ニールさん、本気なのかしら」
「何が」
「今の彼女との関係よ。…ちょっと気になって」

 ふと俯いた彼女にライルは首を傾げた。

「私はちょっと離れたところにいたじゃない?だから何となく…」
「何だよ」

 言うのを躊躇っているのか、焦らされているのか。はっきり言ってくれと壁か
 ら身体を放すと、アニューは唇に指をあてて視線を落としたまま口を開いた。

「似てるの」
「似てる?」
「ええ…なんて言うか、ちょっとした仕草とか、かしら?あと目を伏せた感じと
 か」

 翠と赤紫の視線が重なる。

「刹那と、ニールさんの彼女」

 瞠られた翠が、次いで思い出すかのように虚空に逸らされた。
 思い浮かぶよく知る少女の仕草。そして今日逢ったニールの彼女。

「おいおい…」

 馬鹿にもほどがある。
 けれど言われてみれば、ニールの歴代の彼女たちは、どこか―――。

「何やってんだよ兄さん…」

 深いため息は、頭を抱えるだけでは済まなかった。






















       初めて書いたアニューさんは喋り方がわかりません(汗)というかク
              リスもあんまりわからんです。
       ニールのダメさが浮き彫りになった今回ですが、私はニールが一番好
       きですよ(笑)だから苛めたいんですよ、きっと←
       でもこのニールはさすがに怒られそうですね…。カッコよく書いてあ
       げれなくてごめんなさい!!

          09.01.10 一番になりたい。でも、手を伸ばすのが、怖い。