『なんかいいよな』
言われてみれば、彼の好みの女性は皆、きれいな髪をしている。
自分の短い髪を梳きながら、彼は翠の目を細めた。
『お前は伸ばさないのか?せっかく―――』
自分でもなんて単純なのかと思った。けど、伸ばし始めてから、彼が嬉しそうに
するから。
だから柄にもなく、手のかかるこの髪質に辟易しながらも時間をかけて伸ばした。
07. 空を掴むてのひら
ニールは髪の長い女性が好きだと言っていた。
だが鏡に写る自分の髪は、首筋を晒す程短くなっている。
ガチャ、と玄関の扉が開く音がした。この時間に帰ってくるということは、ライ
ルだろう。
買い物にでも行っていたのか、ガサガサとビニールがすれる音がした。
「ライル」
リビングのドアが開くと同時に声をかける。
思った通り、スーパーの袋をさげたライルが入ってきた。
刹那の声に気づき、顔を向けて―――ターコイズグリーンの眸を大きく見開く。
同時に手にしていた袋が落下した音がリビングに響いた。
「せ…!お前、その頭」
「悪い。揃えられるか?」
呆然としたライルに鋏を差し出し、近くにあった椅子に座った。熱っぽさはだい
ぶん消えたのに、だるさは残っている。
空腹感は感じないが、眩暈がするのは貧血でも起こしているのだろうか。
ライルは思わず刹那を凝視していた。
朝は確かに背を覆う黒髪があったのに、今は無惨なまでにバッサリと切られてい
る。
不揃いで、難を逃れた長い髪が首筋にかかっていた。明らかに自分で切ったのだ
ろうことが伺える。
「―――何で切っちまったんだよ」
「別に…。ただ鬱陶しくなっただけだ」
理由なんてない。
目を伏せてそう答える刹那に、ライルはため息を吐く。
猫っ毛の柔らかな髪は兄のお気に入りで。外見に無頓着な刹那が唯一気にかけて
いた箇所でもあった。
その髪が買い物に行っている隙に一気に短くなるとは、朝の眠っていた姿からは
夢にも思わないだろう。
「…庭にシート引くから。そこで切るぞ」
「頼む」
「俺はニールほど巧くないからな」
頷いた少女の頭をぐしゃりと撫で、背を向けた。
帰ってきたニールは一体どんな反応をするのだろう。
ライルは少し痛む頬に手をあてると、肺の中身をすべて吐き出すようなため息を
ついた。
しゃきしゃきと一定の感覚で鋏の音が響く。
庭で髪を切ってもらうのは初めてではない。けれどいつもとは全く違っていた。
『髪、量増えたな。ほら、庭に出ろよ。切ってやるからさ』
笑顔と、差し出される白くて綺麗な手。
鋏の音と共に脳裏に甦る彼との記憶。
思い出も、未だ胸に抱えるこの想いも全て髪と一緒に切れてしまえばいいのに。
『ほら、可愛くなった。刹那の髪はほんと綺麗だな』
すぐ絡まる嫌いな髪を彼は好きだと言ってくれた。
優しい人。誰にでも優しいのだと気づかなければよかった。
「…刹那」
ライルの呼びかけに、ふと意識が現実に戻る。
虚ろな赤褐色の眸からこぼれる滴が、ケープ代わりにかけたシーツにシミを作っ
ていた。
「………なぜ…」
「刹那」
ライルがそっと後ろから涙を掬うが、壊れてしまったかのように流れるそれは止
まらなかった。
なんで自分が泣いているのか、わからない。
どこにも行く場所のない心に、困惑とどうしようもない喪失感が加わって涙腺が
崩壊してしまったのだろうか。
長く伸ばされていた髪は、刹那がニールを想う証のようなものだ。
「ほら、タオル。…後で目、冷さねぇとな…」
「…すま、ない…」
しゃき、しゃき、と襟足を整えながらライルは知らず眉をひそめた。
すっかり短くなった髪を惜しみ、やるせない気持ちのまま鋏を持つ。
ニールが今の彼女をそれほど愛しているとは思えなかった。いつも似た様な女性
と付き合っては別れる、という行為を繰り返している。相手から告白されて、気
軽にOKするのはライルも同じだ。まぁライルの場合は三カ月も長続きしないが。
ニールは明らかに刹那へ接する姿は特別な何かを感じさせる。
誰かと話す刹那を見つめる目は、嫉妬を含んでいるものだ。ライルにすら彼は―
――。
そのくせ妹のようだと言うのだから、馬鹿だと思う。
「いい加減認めろよな…」
「ライル…?」
呟きが聞こえたのか、刹那が首を回してくる。
何でもないと苦笑すると、未だ止まらない涙を拭ってやった。
帰ってきたニールが刹那を見て何と言うだろうか。
短くなった髪と、赤くなった目に慌てる姿が浮かぶ。
刹那を泣かせているのが自分自身だと早く気づけばいい。
意地の悪い笑みが込み上げるのを、赤褐色が訝しげに見上げていた。
「…よし、こんなもんか?」
手鏡を渡してやると、刹那は短くなった襟足をケープの裾から出した手でちょい
ちょい、と触る。
「…頭がものすごく軽い」
「ああ、そりゃそうだ」
不思議そうに自分を見つめて髪を触る姿に、思わず苦笑した。
背の半ばまであった髪を、一気にショートカットまで切ったのだ。軽くなったに
決まっている。
小麦色の指が鏡の中の自分にそっと触れた。
「…刹那?」
「リセットしたみたいだ」
「は?」
指が短くなった髪をなぞる。
「あの頃に…ニールを好きだと気付く前に戻ったみたいだ」
鏡越しにあった眸は、いつか切れてしまいそうだと思った、あの張りつめた感じ
が消えていた。
代わりに少しだけ穏やかな―――どこか凪いだ海のような諦観したような雰囲気
があった。
赤褐色のそれに息をのむ。
髪を切った。
それだけのことだ。けれど気分はすっきりとして、落ち着いた気がする。
決めたことが、一つある。
鏡の中で、少女は小さく微笑んだ。
「これで全部終わる。ライル、俺―――」
まだ16歳なのだと。時に忘れそうになる。
また傷つくことになるのかと、ライルは顔を歪めた。
カタカタとキーボードが鳴る。
ここ最近、あまり集中が出来ず、イージーミスを繰り返していた。
彼女ともあまりデートや食事をしていない。
ピッ、という音とともに、エラーの表示が出る。思わず出た舌打ちに、自分が思
った以上にイラついていることを悟った。
理由はわかっている。
刹那のこと―――そして朝のライルとのことだ。
湿布を置いて、逃げるように家を出た。殴ってしまったことは悪かったが、どう
して手が出たのかは自分でもよくわからないまま。
結局自分が出勤するまでに刹那が目覚めることはなく、今日はまだあの赤褐色の
眸を見れていない。声も聞いていない。
本当は仕事よりも刹那の傍についていたかった。刹那が目を覚ました時、一番に
声をかけてやりたかった。
なのにそれが出来るのはライルで、自分ではないのが悔しい。
二回目のエラーに、ニールは手を止めた。
「なんだってんだ…」
集中できない。
脳裏にはソファーで昏々と眠る少女の姿が浮かぶ。いつの間にか、「女の子」に
なっていた姿が。
長く伸びた髪も、やわらかくなった姿態も。見ていたはずなのに、今更気づいた。
今この時間も、ライルと共にいるのだと思うと胸のどこかが焼けるような感覚を
覚える。
「刹那……」
いつからだろう。
こんなに遠くなってしまったのは。
定時で仕事を切り上げ、ニールは慌ただしく会社を後にした。
熱はもう引いただろうか。
何か刹那の好きなものを買っていこうと思って、今の彼女が何を好きなのか知ら
ないことに気づく。
―――昔は何でも知っているつもりだった。
好きなものも、嫌いなものも、すべて。
急に足元が崩れてしまったような感覚に陥った。
どうして、こんな風になったんだろう。大切でしょうがなかったはずなのに。
「刹那」
何度も何度も呼んできた名前を呟いても、返事が返ってくるわけがない。
けれど呟かずにはいられなかった。
とりあえず、と林檎を数個買って帰宅したニールを待っていたのは、朝以上の衝
撃だった。
見知った車が車庫に入る。兄が帰ってきたようだ。
ずいぶんと体調の良くなった刹那は、夕食の支度を手伝っている。
玄関の開く音、一人分の足音。
「ただい―――」
自分と同じ翠が瞠目する。抱えていた荷物を放り出したニールが、口をあんぐり
とさせていた。
「刹…那…?」
慌てて駆け寄ってきた彼を刹那は困り顔で迎える。並べるために持っていた食器
がぶつかる音がした。
「お前、その髪…」
パクパクと口を動かし、伸ばされてきた手から逃れるように後退る。
明らかな拒絶のそれにニールは躊躇って、触れるのを諦めた。
けれど目は刹那を凝視したままで、ダイレクトに心配を伝えている。
「着替えてこいよ、ニール」
膠着状態だった二人に割って入ったのはライルだった。呆れた目でニールの姿を
見やる。
まだコートも脱いでいないのだ。放った荷物も何とかして欲しい。
ころりと袋から転がり出た赤が、ひどく場違いに見えた。
「すぐ飯にするからさ。今日はシチューな」
「あ、ああ」
刹那から目を離さないまま返事をするニールの肩を扉の方へと押しやる。
彼の姿が見えなくなった途端に小さく息をついた刹那の頭を撫でてやる。短くな
った髪が、さらりと指の間をこぼれた。
その日の夕食はニールの視線が煩かった。
「…ライル」
刹那が帰った後、ニールが剣呑な目をしてこちらを見る。
まだここにいろと言ったが、今日はもう休んで明日は学校に行くという。
学校に行くのなら自分の家からがいいだろうと、具合が悪くなったらすぐ言うよ
うによくよく言い含めて帰した。
その後すぐだった。リビングに帰ってきたライルに、深くなった翠が向けられた
のは―――。
正直なところ、聞かれると思っていたから答えるのは楽だ。
直接聞けばいいのにと思いながらも顔だけを向けた。
「何だよ」
「…刹那の髪、どうしたんだ」
「ん?」
「何で切っちまったんだよ?朝まで長かっただろ!?」
「昼に切ったんだよ。…本人に聞けば良かったじゃねぇか」
「っ…」
拗ねたように視線を逸らす兄に呆れる。
あんなに露骨に見つめていたくせに、問わなかったのはニールだ。
ライルから答える気はない。これは刹那とニールの問題だから。
刹那は踏ん切りをつける為に髪を切った。今まで大事に伸ばしてきた髪を。
深いため息をひとつ吐くと、ライルは頭をかきながら答えた。
「失恋したんだと」
「…は?」
目を丸くした彼を、胸中で嗤う。
「そいつの為に伸ばしてたから、切ったんだろ」
「失恋…?」
呆然としているニールをちらりと見やる。
大事な大事な妹分として可愛いがってる少女が失恋。
「…刹那が…」
誰を好きだったんだろう。
全く知らなかった事情にニールは苦味を潰したかのように顔を歪めた。
何年か前からずっとこうだ。
ライルは知っているのに、自分は知らない刹那が増えていく。
あの長く伸ばされていた髪は、自分のお気に入りだったのに。
テーブルに置かれたコーヒーを手に取る。ひどく喉が渇いていた。
いつの間にか温くなったそれを一気に煽る。
「…っにが」
流し込んだ感情は果たして何だったのか。
ニールはまだ気づかなかった。
軽くなった頭はすっきりとしている。
マフラーを巻いていても、首筋が心もとなく寒さが通り過ぎるが、気持はとても
穏やかだった。
登校時間より一時間は早い。そんな時間に刹那は通学路をゆっくりと歩く。
今日はライルが起こしに来るより早く家を出た。呼びに来られてニールに凝視さ
れるのは遠慮したい。
それに今、あの家には居たくない―――。
「…刹那?」
背後から名を呼ばれ、立ち止まる。
振り向くと、珍しい表情を浮かべた友人が立っていた。
「ティエリア」
知的で秀麗な容貌でも際立つカメリアが、思い切り瞠られている。
早めに登校したのに、何故か先に来ていたティエリアに、刹那はため息をついた。
きっと迎えに来てくれるつもりだったのだろう。
そうでなければ、反対方向に家がある者がここにいるわけがない。
驚愕の表情の理由も察している。この友人はとても目敏いから。
「―――どうしたんだその頭」
「…昨日切った」
「何故」
「…重たくなりすぎた」
自嘲に失敗した痛々しい笑みにティエリアは眉を寄せた。
体調を崩して欠席した刹那が心配で、今日は朝から彼女の家へと行ってみるつも
りだった。
精神的に強いようで弱い刹那。
一人で抱え込む前に、何とかしてやれないかと思っていたのに、遅かった。
思わず唇をかむ。寒い朝の空気に冷やされた唇は簡単に血の味を引き出した。
「…お前がそんな顔する必要はないだろう?」
困ったようにこちらを見る赤褐色は、体調を崩す前より幾分すっきりしていて。
髪を切ったことで、気持ちが晴れたのなら、それはそれでいいのだけど。
「…短くても似合うが、風邪はもうひくなよ。そろそろ学年末だ」
「ああ」
どこに持っていたのか、暖かそうなストールをかけられ、刹那は苦笑を返す。
何も聞かないでくれる優しい友人に、感謝した。
いつだってさり気なく助けてくれる。
「行こう。…まだ早いが、学校は開いている」
「ああ」
「ルイスたちが来るまで、生徒会室にいればいい。…教室は寒い」
「……ありがとう」
伏せていた目を開けると、ティエリアの白い頬が寒さで赤く染まっていた。
今日は寒い。もしかしたら、雪が降るかもしれない。
天気予報では雨だと言っていたけれど、なんとなく、そう思った。
教室で2日ぶりに会った刹那の髪が短くなっていたことに、なぜかルイスが泣く
ほど残念がった。
刹那にとっては羨ましい限りのまっすぐで美しいブロンドの髪をしているという
のに。
彼女の言い分では、刹那のふわふわな髪が憧れだったらしい。
「でも短いのも似合うー!」と叫んで笑うから、どこかほっとした。
ルイスとは高校に入ってからの付き合いだが、彼女の明るさや、裏表のなさには
いくらか救われる。
中学までは、こんな風に友達と話すこともなかった。
だから今は昔に比べると幸せで、つらいと思う。
離れるのが、嫌だ。できれば卒業までここにいたい。
『この家は手放すけど、あなたはどうする?』
『当面の金は出してやる。だからこれからは―――』
両親の離婚が本格的に決まり、今住んでいるあの家は3月いっぱいで出なければ
ならないと聞いた。
どちらにも刹那を引き取る意思はなく、4月からは一人だ。
―――別に今更一人になったところで、困ることはない。今までも一人と変わら
なかった。
ただ。この家と離れるのは、少しだけ躊躇う。
もしかしたら、転校することになるかもしれない。友人たちと離れるのは―――
さみしい。
そして、彼とも。もう「隣人」でも、「妹のような女の子」でもなくなる。
それが悲しいのか、ほっとしているのかは、まだ自分でも判らなかった。
髪と一緒に捨てたはずのものが、胸の奥に縋りついたまま。
きっと彼を忘れるまで――そんな日が来ないとわかっていても――残る気がした。
もうすぐ卒業式だ。
もうそんな時期なのかと、忙しそうに動き回るティエリアをはじめとした生徒会
役員を見やる。
後少しで椅子を並べる作業は終了。家に帰りたくないと言った刹那に、ティエリ
アが手伝えと残らせたのだ。
「刹那」
「…もう終わりか?」
「ああ。後は明日だ。本番も近いことだしな」
「明後日、だろう」
「そうだ。荷物を持ってこい。…帰るぞ」
カメリアの眸が、薄暗くなってきた空を見上げる。
ひどくゆっくり、ゆっくりと白い花が降っていた。
後者を出て、二人、無言で歩く。
積りはしない、それは地面に着くとアスファルトに同化して消えていった。
「刹那」
小さく名前を呼ばれ、視線だけを向ける。
硬質な眸が、いつもとは違って揺れていた。
「ティエリア…?」
「全部話してみないか」
「…なに、」
「髪を切ってからずっと、諦めたような眼をしている。…何があった」
真摯な声に、思わず息をのむ。
ティエリアはそっと刹那の頬を撫でた。
渇いた頬に涙の跡が見えるようだ。髪を切って登校してきた日からずっと、いや
もっと前からだったのかもしれない。
出逢ったときはもっと強い眼をしていたのに、今の赤褐色は精彩に欠いている。
「話してくれ。全部。…少しでも、気が晴れるかもしれないだろう?」
冷たい手だ。でも、頬よりあたたかい手だ。
舞う白が、地面に色を残しだしていた。
話してもどうにもならないとわかっていた。
けれど、なぜ話す気になったのだろう。
通学途中に立ち寄れそうな場所はない。二人は駅の通りにあるカフェへと向かっ
た。
もう日は落ち、下校からずいぶん時間が経っているからか、同じ学校の生徒は見
当たらない。
頼んだ紅茶を一口飲み、ティエリアが息を吐いた。
「これで、全部だ」
「…そうか」
家庭の事情など、聞いても面白くもなんともないだろう。特に刹那のように――
―あまり良いとは言えない家庭環境ならばなおさらだ。
そして誰にも自分からは話したことのない、想い。特別な存在がいるなど、きっ
と意外だったはずだ。
けれど口下手な刹那の話を遮らずに聞いてくれた友人に、感謝した。
「4月からは多分、どこかで一人暮らしになる」
「…学校は」
「できれば変えたくない。だが…わからない」
「……彼は、その話を…?」
「知らない。…伝えるつもりも、ない」
首を横に振ると、短くなったセピア色がぱさぱさと揺れる。
髪を切ったのは失恋したからだったのか。
ティエリアも刹那の柔らかな髪を気に入っていた。だから純粋に惜しいと思う。
大切な友人であり、後輩である少女。
強いと思っていた。けれど本当は―――。
『大丈夫だ』
呼び出されたときに、刹那は決まってそう口にする。
その時彼女は決まって泣きそうな、どこか迷子のような顔をしているのに。
大丈夫だと口にしながら、とてもその様には聞こえない。
今だってそうだ。もう麻痺してしまっているのか、諦めきっているからか、以前
より更に迷子のよう。
護ってやりたいと思った。
恋人だとか、そんな感情ではない。
それこそ妹のような。そんな親愛と呼ぶだろう感情。
「…刹那」
名前を呼ぶと、ただ、何の感情もない視線が返った。
「僕では、だめか」
「…え?」
「彼の代わりになるとは思わない。だが、そんな顔した君を放ってはおけない」
レンズの向こうから真摯なカメリアが見える。
この赤は刹那をいつも心配してくれた。初めの頃はあんなに苦手だったのに、い
つの間にか傍にいて安らぐようになった。
今も、優しい手に、声に、視線に泣きたくなる。
甘えてしまいたかった。けど。
「ありがとう…」
「せつ、」
「でもティエリアにそんなことしてもらう資格はない」
「資格など…!」
ゆるゆると横に首を振り、刹那はまっすぐにティエリアを見つめた。
秀麗な顔に哀しみを見つけて、切なくなる。
心配させているのが申し訳なかった。こんな、親にもいらないと言われた人間に
―――。
「ありがとう。…ティエリアみたいな人を好きになればよかった」
「っ…刹那…」
まだ自分を気にかけてくれる人がいる。
両親や「彼」はもう、離れてしまったけど。ライルや、ティエリア、学校の友人
たち。まだ本当に一人じゃない。
冷めた紅茶を飲みほして、刹那は小さく微笑んだ。
その笑みが諦めと哀しみを映したようにしか見えないことには、気付かなかった。
ティエリアが出張ってます(笑)すみません、大好きです…!
いつの間にかティエの性別確定しちゃいましたね。でもこう、ニールを焚きつけたくて。
残すところあと3話です。…終われるかちょっと心配なんですけど、頑張ります!
09.08.13 好きだった。伝えないまま、もうずっとずっと―――。
|